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ホームイベントシンポジウム 政策シンポジウム他 多様化する日本のコーポレートガバナンス-特定のモデルへの収斂?- 印刷 開催案内 配付資料 実施概要報告 議事概要 Pros and Cons イベント概要 日時:2004年10月20日(水) 9:00-18:00 会場:国際連合大学エリザベスローズホール(東京都渋谷区) 開催言語:英語⇔日本語(同時通訳あり) Pros and Cons 国際シンポジウム「多様化する日本のコーポレートガバナンス-特定のモデルへの収斂?-」 2004年10月20日、経済産業研究所(RIETI)は「多様化する日本のコーポレートガバナンス-特定のモデルへの収斂?-」と題する国際シンポジウムを開催した。 シンポジウムでは、 (1)銀行がガバナンスのために果たす役割の変遷 (2)外国人機関投資家が日本企業に与える影響 (3)取締役会に関連する法改正の影響 (4)日米間におけるコーポレートガバナンス収斂の問題と日本における「ハイブリッド型」のコーポレートガバナンス誕生の可能性 について、近年の実証研究の成果に基づき議論が交わされた。 本稿の目的は、シンポジウムで議論された主要な論点について、賛否両論を取りまとめ、問題の所在を明らかにすることである。皆さんの御意見をいただければ幸いである。 1.議論の背景 (1)日本企業は1990年代以降、コーポレートガバナンスから生じるさまざまなジレンマに直面してきている。戦後期の大半において、日本企業のコーポレートガバナンスは「銀行に基礎を置くモデル」、もしくは「ステークホルダー志向型モデル」であったということができる。企業経営は、メインバンクが中心になって外部からモニタリングし、従業員は社内で強い立場を維持し、長期的な関係を重視した企業文化に溶け込んだ社内の人間が内部で昇進していき、企業経営を担ってきた。この傾向は、たとえば、株主の権利重視、機関投資家による市場圧力、社外取締役の採用、従業員とのアームズレングスの関係を特徴とする米国のコーポレートガバナンスとは著しく異なっていた。日本の制度は目覚しい成功を収めてきたにもかかわらず、バブル経済の崩壊後内外の環境変化による厳しい圧力が高まったため、1990年代半ば以降には改革を余儀なくされ、長期に亘る変化を被ることとなった。これにより、日本は資産収益率(ROA)などの数値を目安にした企業の平均的業績が悪化の途をたどっていっただけでなく、企業の業績にもばらつきの拡大がみられた(宮島)。 (2)金融や投資の面で外国人は、日本で次第に重要な役割を果たすようになってきている。第一に、外国人投資家が東京証券取引所で保有する株式は、1990年時点では上場された株式のうち4%だったが、2002年には18.3%に上昇した。株式市場取引のうち、外国人によるものは1990年には9.8%にすぎなかったが、2002年には31.7%にのぼっている。第二に、企業の資金調達においては、銀行を通じた間接金融に代わり社債が大きな役割を果たすようになってきている。このため、海外からの資金調達を必要とする日本企業は、国際的格付け機関が出す社債の格付けに大きな注意を払うようになってきている。第三に、日本向けの海外直接投資が増加し、海外の企業は、日産自動車や三菱自動車などの例にみられるとおり、これまでにない規模の買収を仕掛けてくるようになった。対内直接投資総額の対GDP比は、他国と比べると、いまだに非常に低い水準にとどまっている。しかし、国際的に投資をより多く引き付けることの重要性が企業、政府の双方で認識され、企業改革の一環として、株式持合いの縮小、合併および買収の促進、政府事業の民営化、米国企業等で優秀なスタッフを集めるための有力な手段となっているストックオプション制度の自由化などの取り組みへの関心が高まっていった。 国際的な金融取引の活発化を背景に、国際基準が日本の企業法制に与える影響も次第に大きくなっていった。すなわち、会社法をめぐるさまざまな政策論争や、企業や投資家の自主規制としてのガイドラインや規約の導入がみられるようになり、コーポレートガバナンスを取り巻く新しい社会規範が、海外に倣う形で、日本に導入されてきている。一方、国際会計基準や米国のサーベインズ・オクスレイ(Sarbanes-Oxley)法といった海外法令が、日本企業に域外適用される事例も今後多くなってくる可能性も出てきた。 (3)1980年代の金融関連の規制緩和とバブル経済の崩壊は、日本の銀行が不良債権を抱え込むという大きな問題につながった。それまで銀行はコーポレートガバナンスに大事な役割を果たしていたが、不良債権危機により、その能力は大きく蝕まれていった。内部資金と直接金融の利用可能性がともに高まったことにより大企業が銀行への依存を減らす中で、銀行は規模が小さくリスクの大きい顧客への依存を高めていった。不良債権の積み上がりと必ずしも果断とはいえない政府の政策の下で、矛盾した状況が作り出されていった。すなわち、業績回復の可能性のある企業が貸し渋りに直面し、一方実質上破綻した顧客への融資は次々とロールオーバーされていった。銀行危機は、銀行経営の透明性、会計基準の在り方だけでなく、銀行と産業界の関係一般についても政策論争を巻き起こした。より一般的にいえば、旧来のメインバンク関係を維持することが不可能になっていったのである。 (4)日本企業の組織的アーキテクチャの変化も、コーポレートガバナンスに新たな課題を突きつけることになった。モジュール型の生産技術の出現は、それまでの階層的な関係におけるコーディネーションや事業単位を超えた水平的な情報共有といった企業構造に劇的な変化をもたらした。特に、モジュール型生産技術の発展をもたらしている情報技術の進歩は、より流動性の高い株式市場、ベンチャーキャピタル、社外にも通用する専門的能力により大きな重きを置く強力な外部労働市場と相俟って、米国に新しい競争力をもたらすであろうといわれている。 一方、日本のコーポレートガバナンスは、改良を積み重ねていくような漸進的なイノベーションと現場のスキル向上に基礎を置くより擦り合わせ型でネットワーク重視の生産方式に、より適合したものとなる傾向があった。また、日本のコーポレートガバナンスは、戦後の高度経済成長期以降、強力な銀行・企業間関係を通じて企業が長期投資を行いやすくするという特徴を有していた。しかし、低成長に直面する企業を規律するという点では、日本のコーポレートガバナンスはうまく適応することができていないのかもしれない。 (5)日本では今、コーポレートガバナンス改革についての議論が続いている。米国の経済パフォーマンスが1990年代後半上向きとなり、アングロ・アメリカンの学派で「シェアホルダーバリュー」が支配的概念となると、日本の改革推進派は市場志向型ガバナンスへの転換を強く主張するようになった。企業スキャンダルが続いたことも日本的な慣行に対する批判を煽ることとなった。一方、こうした改革への取り組みに批判的な多くの人は、米国型の株主志向のガバナンス慣行を日本に輸入すれば、日本企業が過去に築いた強みを失わせることになり、同時に連帯と平等を尊ぶ日本社会を蝕むことになると警告した。このため、日本のコーポレートガバナンス改革においては、問題の本質そのものがあいまいにされたまま、解決策に関して好悪の相反する感情が深くからんだ形で駆け引きが行われている。こうした中、日本のコーポレートガバナンスの改革は、商法および関連法の改正を通じて漸進的に進みつつある。 2.争点と残された課題 争点その1:銀行の役割、メインバンク制の評価 コーポレートガバナンスを進める上で、日本の銀行は現在どのような役割を果たしているのだろうか。メインバンクは長期融資や状態依存型ガバナンスを提供しているが、その有益な部分と、企業改革を妨げている有害な部分を比較すると、どちらが勝っているのだろうか。 (1)否定的見解 日本の銀行のモニタリング能力とガバナンスにおける前向きな役割は、銀行危機の結果、深刻な打撃を受けている。 1)日本企業の資金調達能力は、1990年代に大きく二極化した。大企業(企業数では20%程度だが、資産価値で68%、雇用では57%)は、自らの資金源を銀行貸出から社債へと転換した。一方、成長の見込みが低いより小規模な企業は、むしろ逆に銀行融資への依存を高めることになった(宮島・蟻川)。 2)この逆選択により、日本の銀行は追い貸しといったモラルハザードの危険にますますさらされるようになり、融資のポートフォリオの悪化につながっていった。これは、よく知られているように不良債権危機という結果を招くことになった。 3)銀行の地位の低下により、効果的なモニタリングを行う銀行の能力が著しく失われたことが実証された(宮島・蟻川)。銀行への依存が高い企業は雇用のリストラクチャリングが進まない傾向があり、1990年代後半には、銀行によるエバーグリーンポリシー(追い貸し政策)がみられた。同時に、成長性が高いが銀行に依存している企業は、銀行に依存していない企業に比べて投資額が低いという傾向がみられる。これは銀行が不良貸し付けを中止し、より良い投資機会に転換することができないことにより、「貸し渋り」が生じたことを示している。これらの事実は銀行が以前に持っていた「状態依存型ガバナンス」の役割に大きな変化が生じていることを示している。 4)この結果、日本企業の間で資金調達方式の二分化が更に進むことになる。大規模な国際的企業は資本市場志向のガバナンスに移行し、一方で中小企業は銀行との伝統的な関係を維持していくこととなる。 (2)肯定的見解 日本の銀行のモニタリング能力は、銀行の健全性が回復するとともに改善していく。 1)中小企業の銀行融資に対する需要は、今後もなくなることはない(宮島・蟻川)。日本では中小企業の割合が高く、社債や株式による資金調達の需要は今後も限られているということを意味する。これらの企業は規模が小さいため、公開市場にはアクセスできず、銀行との関係を通じた資金調達がこの隙間を埋めることになる。 2)長期的関係に基づく金融は、伝統的な融資から、むしろ社債の引き受けとリスク管理に焦点を移して、一部再編成されつつある。クレジットラインの自動延長も、メインバンクが提供する金融サービスの1つとしてよく使われるようになった(宮島・蟻川)。銀行の合併も、規模の経済性と情報優位性を取り戻し、過当競争をなくすことにつながるかもしれない。 3)公的破綻処理手続きへの参画や民間証券投資の引き受けといった内容もガバナンスメカニズムのメニューに加わるなど複雑化がみられる中で、銀行の新しい役割も生まれてきている(胥)。合併を通じて競争関係にあった系列の企業の糾合が図られ、系列の枠を越えた統合を促進することで、新たに興ってきたM&A市場の「編成」が進むことになるかもしれない。一部主要銀行の証券部門は、国内のM&A市場で現在、重要な役割を果たすようになってきている。 4)公的破綻処理手続きが近年改善されたことは、銀行にとっても助けとなる。銀行の伝統的なモニタリング能力が弱まるにつれ、金融上の問題が発生した場合のガバナンスの役割は次第に専門化され、処理手続きは多様化していった。近年の改革により、公的破綻処理手続きはより一般的となり、同時により効果的になった(胥)。銀行は、企業再建問題を専門的に処理するため、専門部門を独立させたり、別部門や子会社を設けたりするなどして、この問題では重要な役割を果たしている(堀内)。効率的な破綻処理手続きが利用しやすくなることにより、メインバンクによる介入の脅威は企業にとってより現実的なものとして認識されるかもしれない(宮島)。 5)前述した点から、日本の中小企業に対するコーポレートガバナンス、あるいは系列の企業グループに対するコーポレートガバナンスにおいては、長期的な関係に基づく銀行による金融サービスの提供(リレーションシップバンキング)は、引き続き中心的な役割を果たし続けるだろうということが考えられる。メインバンク制は、これまでと比べて、適用範囲は限られてくるが、一定の役割が期待される。銀行がこうした役割を効果的に果たすためには、銀行自体が健全性を確保できるかどうかが今後とも必要条件となる。 (3)残された課題 1)日本の金融システムは依然として銀行主導である。年金改革は、家計部門の貯蓄を大幅に株式関連投資に移行させるには至っていない。また、日本における所得不平等は比較的小幅にとどまっており、リスクのより大きな株式関連投資への需要を抑制している。このように、資金の供給サイドの要因から、国内貯蓄の主たる受け入れ先として銀行預金が引き続き重要な地位を占めることになる。 2)モニターを誰がモニターするのか。銀行部門自体のコーポレートガバナンスをいかに行うかは、重要だが未解決の問題として残されている(堀内)。大手銀行の所有権は安定株主の間に広く分散しているため、銀行がどの程度外部からの規律付けに直面するかは不明確のままである。外国人投資家と国内機関投資家の株式保有の程度に応じて、銀行がより株主重視の姿勢に転換する圧力を受ける可能性もある。もう1つの側面は、銀行部門の良好なガバナンスを確保する上での金融庁などの規制当局が果たす適切な役割である。 3)銀行の健全性確保のための政策手段も重要である。銀行経営の健全性は引き続き銀行が企業部門のモニターとして積極的な機能を果たす上でのカギである。銀行の健全性を向上させる政策オプションを評価し、さらなる代替案を提案するために追加的な研究が必要である。 4)銀行の健全性の向上は、銀行のメインバンク機能の回復につながるのだろうか。この設問に対する暫定的な答として、健全な銀行は中小企業金融において引き続き重要な役割を果たす可能性があるということができる。しかし、大企業との間では、以前と同程度にメインバンク関係が復活する見込みは依然として小さい。 5)市場志向の規制環境の下で、どの程度リレーションシップバンキングが可能なのか。金融自由化は、統制された競争によって支えられていた銀行の独占的レントを縮小した。だが、それに加えて、よりルールに基づいた規制レジームによって、銀行が透明性と情報開示を図りながら顧客との長期的関係を維持することはさらに困難になり、顧客企業の個別情報という銀行の「資産」が生み出していた情報レントの価値が低くなった。この意味では、リレーションシップバンキングと資本市場志向のコントロールを組み合わせた実行可能なハイブリッドなモニタリングシステムは依然として達成困難である。新たは規制条件下における銀行の戦略に焦点を合せたより多くの研究が必要となろう。 6)産業再生機構(IRCJ)の役割も残された課題である。伝統的な銀行によるモニタリングが減少する一方で民間投資を通じた企業再生が進展していることを踏まえると、IRCJの役割および有効性についてはさまざまな見方が可能であろう。 争点その2:機関投資家の役割 国内および海外の機関投資家はコーポレートガバナンスにおいて主要な外部勢力となるのだろうか。 (1)肯定的見解 外国人投資家は、透明性の確保、取締役会の改革、企業再生等の企業の経営行動に大きな影響を及ぼす。 1)外国人投資家は、退出(exit)の脅威を用いて日本の企業経営に影響を及ぼす(Ahmadjian)。過去10年間に外国人投資家による日本企業の株式保有比率は大幅に増加し、日本企業同士の安定的な株式持合いは減少した(宮島)。同様に重要な点は、株式売買高における外国人投資家の比率が30%近くに達したことである。この結果、外国人投資家の株式売買の判断が株価に大きな影響を持つようになり、外国人投資家がポートフォリオの変更を行う場合には国内投資家が外国人投資家に追随することもしばしばみられるようになった。 2)外国人投資家は意見表明(voice)による影響力行使、特に非公式の意見交換を通じて、企業経営に影響を及ぼす(Ahmadjian)。大きな機関投資家は、自分の意見に直接日本企業トップの耳を傾けさせる一定の能力を有している。投資家は多くの場合企業と積極的な関係を維持するが、日本企業においてもインベスターリレーションズ専門の部署を創設する動きがひろまり(宮島)、アナリスト向けのロードショーやプレゼンテーションも行われるようになった。 3)最近の研究で外国人投資家の株式保有比率と企業行動の間に強い関連性があることが明らかにされている。第一に、外国人保有比率が高い企業ほどコーポレートガバナンス改革のためのさまざまな取り組みを実施する傾向がある。これらの企業は、JCGインデックス(Ahmadjian)および財務省の最近の調査に基づいた指数(宮島)のいずれにおいてもより高い得点を示している。これらの企業は、外部に対して透明性と情報開示の程度を高める傾向があり、取締役会改革への取り組みにも熱心である。第二に、外国人による支配権の拡大は、雇用調整の面、具体的には、雇用水準の引き下げ(Ahmadjian)あるいは年功型給与の縮小(Jackson)などとも正の相関を有している。同様に、外国人株式保有比率が高い企業は既存資産を売却する傾向が高い。したがって、外国人株式保有比率とリストラクチャリングの間には一定の正の相関が存在するということができる。 (2)否定的見解 外国人投資家のガバナンスにおける積極的な役割はいまだ限定的であり、一部の企業に集中している。 1)外国人投資家は日本の株式市場全体の中でもほんの一握りの部分に投資しているに過ぎない。年金基金などの機関投資家は、国際的に知名度が高く海外市場に輸出実績のある大手優良企業のみに投資する傾向がある(Ahmadjian)。投資家にとって重要な問題は、当該企業の株式が大量売買を容易かつ円滑に行えるのに十分な流動性を備えているかどうかである。東証上場企業で外国人株式保有比率が20%を超えるものは10%程度にとどまるのに対し、外国人保有比率5%未満の企業が過半を占めている。外国人投資家の役割が重要だとしても、すべての企業にとって重要だというわけではない。 2)外国人株式保有比率が高い場合でも、外国人投資家の株主行動主義(shareholder activism)は重大な限界に直面する(小佐野)。たとえば、機関投資家が特定の企業方針やお粗末な経営に対象を絞り共同で圧力をかけるためには、多様な投資家の間の調整問題が依然残っている。株主総会での議決による影響力の行使も散発的なものにとどまる可能性がある。また、特定の企業に対するコミットメントが低いということは、パフォーマンスの悪化がある閾値を超えると最終的には投資家が退出を選好することを意味している。さらに、外国人投資家が特定企業にターゲットを絞って日本国内で「悪役」になることを躊躇するような社会的あるいは文化的タブーも存在する。 3)外国人投資家がガバナンス改革に向け圧力をかけたとしても、対抗する圧力が存在することも考えられる。企業がメインバンク関係を維持、あるいは株式持合いを堅持している場合、これらの企業が伝統的なコーポレートガバナンスの慣行を放棄したり、リストラクチャリングに取り組んだりする可能性が小さいことも考えられる。 (3)残された課題 1)国内機関投資家による新たな行動主義(activism)は考えられるか。米英系を中心にした年金基金の行動主義は、日本の年金基金にとって見習うべき前向きな例として受け止められている。厚生年金基金連合会(PFA)は、不十分な企業パフォーマンスの継続がみられた場合、定時株主総会における議決権行使において、社外取締役の登用を強く求めるか、あるいは反対投票を投じることを定めたガイドラインを発表している。その結果、反対投票の件数は大幅に増加している。その他の国内機関投資家がこのような流れに追随するかどうか今後の動向が注目される。しかし、国内機関投資家のポートフォリオは外国人投資家よりもはるかに広範囲の企業を組み入れており、外国機関投資家が投資対象としないような規模がより小さく国内市場志向の企業への圧力を高める主体として期待できるかもしれない。 2)敵対的買収の問題も残された課題である。株式保有構造の変化(宮島)や(ある程度の)投資家の姿勢にみられる変化が、日本でも敵対的買収を通じて企業支配を行うための市場を作り出す可能性を高めることも考えられる(小佐野)。外国人投資家は株価にプレミアムをもたらす敵対的買収の申し出を支持する可能性が高い。また、日本の大手事業会社も自社の株主である外国人投資家からの圧力を受けて、敵対的買収を仕掛けられた企業の業績が不振だった場合には、敵対的買収の申し出をきっかけに「安定株式保有」関係を見直すことも考えられる。最近の企業買収の事例や敵対的な株式買い増し(hostile stakebuilding)の現象(この場合、大きなブロックホールダーが企業支配から退出する)についてはまだほとんど研究が行われていない。企業支配の市場ができれば、株主圧力の大幅な増加を通じて日本企業は非常に大きな影響を受けることになる。だが、企業買収に関する社会科学的知見は今のところ極めて混沌としている。企業買収の「明るい側面」は、対象となった企業の株主にとってリターンが高まること、「暗い側面」は背信行為の発生、経営の短期主義化といった問題が伴うことである。日本におけるM&Aの見通しについてはさらなる研究が必要である。 3)外国人機関投資家による対象を絞った行動主義の発揮はあるのか。外国人投資家によって追求される株主行動主義には異なったタイプが存在する。カリフォルニア州職員共済組合(CalPERS)などの一部の機関投資家は、特定企業の経営陣を標的にすることや、コーポレートガバナンスの原則について極めて積極的に発言することで定評がある。だが、そうした積極的なモデルに従う機関投資家の数はそれほど多くはない。将来的に登場してくる興味深い問題は、米欧において受託者義務(fiduciary duties)重視の法的主張が強まることによって、既存の外国人投資家の行動主義というものの範囲が拡大され、日本にも影響を及ぼすかどうかである。 争点その3:取締役会等に関する改革 取締役会、法定監査人を対象とした法改正は日本企業への外部モニターを強化するか。 (1)肯定的見解 日本企業の取締役会は取締役の数を減らし、より透明性を高めており、最高経営責任者(CEO)と異なる意見を主張し得る社外取締役とのバランスもよくなっている。 1)取締役会に関する法改正は、社外取締役のモニタリングにおける役割を大幅に向上させた。強制力を持つ主要な変更には、2005年央に実施される純粋に外部者である(元従業員でない)少なくとも2人の監査役の任命による法定監査役の独自性の強化がある。 2)もう1つの主要な改革は、いわゆる「委員会等設置会社」制度に基づく取締役会構成を企業の自発的意思に基づき採用できることとしたものである。企業は法定監査役制度を採用する代わりに、社外取締役が過半数を占める監査委員会、指名委員会、報酬委員会の3つの委員会を設置する「委員会等設置会社」に移行することができる。施行後1年を経た時点で、この制度を採用している企業数は55社となった(宍戸)。これら企業の大半は、親会社から社外取締役を受け入れる子会社である。これらのケースでは、「委員会等設置会社」への移行は独立したモニタリングを推進することに目的があるとは思われない。しかし、企業グループ内のコントロールを強化するという好ましい効果がもたらす可能性が考えられる。 3)日本国内ではいわゆる「執行役員制度」が広範に採用されている。この制度は、取締役会の全体規模を大幅に縮小する、意思決定の合理化・効率化を図る、全般的企業戦略の策定と実際の事業活動における業務戦略の遂行をより明確に区別するといった目的に結びついたものである(宮島)。 4)利用可能な実証研究の結果によれば、日本企業において企業情報の開示の程度と企業パフォーマンスの高さに正の相関がみられる(宮島)。こうした効果は、透明性の向上により投資家から投資を受けやすくなることに伴い資本コストが低下するという仕組み、もしくは経営陣がより高い利益を出すことにコミットすることでその実現性が高まるといったコミットメント効果によって説明できる可能性がある。あるいは、因果関係は逆であって、企業パフォーマンスがより高い企業が透明性と情報開示を高めることを積極的に選択するということも考えられる。 (2)否定的見解 現行の法的ルールの下では、社外取締役が経営陣トップの有効なモニターとしての役割を果たす可能性は低い。 1)最近の日本についての実証研究は、執行役員制度あるいは社外取締役の導入が企業パフォーマンスの改善をもたらしていないことを示唆している(宮島)。効果がほとんど認められなかった理由は明白ではなく、更なる仮説が必要となる。すなわち、第一に取締役会制度の改正が積極的な効果をもちうるかどうかは、事業のタイプに依存するのかもしれない。取締役会内部の機能の分離は、極めて多様な事業を展開する大企業には有用かもしれない。しかし、擦り合わせ型の組織的アーキテクチャを持つ単一製品企業にはそれほど適していない可能性がある。第二に、社外取締役の独立性が未だ十分に確保されていないため、コーポレートガバナンスにおいて期待される望ましい効果を発揮するに至っていないことも考えられる。第三に、社外取締役は積極的な影響を及ぼしてはいるが、業績不振の企業の側が必要とされる改革を採用していない可能性もある。 2)改正後の法定監査役制度では、社外監査役は効果的なモニターとして機能するのに十分な権限がない。ドイツの監督委員会(supervisory board)とは全く異なり、法定監査役にはいまだに取締役会が行った決定を承認する法的権限が付与されていない。社外監査役は現職の社長が任命するため、社外監査役であってもその独立性の程度が疑問視される場合もある。 3)「委員会等設置会社」制度においても、取締役会内部における社外取締役の権限や潜在的な独立性に関して多くの問題がある(矢内)。理論的には、「委員会等設置会社」制度は社外取締役が過半数を占める各委員会に重要決定を委ねており、チェックアンドバランスの重要な要素として機能することが期待される。しかし、フォーマルな仕組みが、企業内の実際の意思決定に関するインフォーマルな基準や文化に関してほとんど何も伝えていないことがしばしばみられる。加えて、「委員会等設置会社」制度の採用は企業の自主的判断に任されているため、外部の人材による精査とモニタリングが最も必要な企業において、この制度を採用する可能性が最も小さいものとなる可能性がある。この自己選択バイアスは、強制法規でなく、「~することができる」という形式の法制という政策アプローチの重大な限界を示している。 4)関連する問題として、独立性という概念がある。法律用語でいえば、最近の商法改正では、外部者の概念について「現在もそして過去においても当該企業の被雇用者ではない」という以外には明確な定義はなされていない(宍戸、矢内)。この慎重なアプローチは、柔軟性に欠ける官僚主義的基準を押し付けることを避け、実験の余地を残し、社外取締役となりうる潜在的に多様性のある人材グループを引き入れるという意味では利点がある。しかし、社外取締役の独立性を確保する基準はまだ十分整っていないため、社外取締役が社長の「とりこになっている(capture)」程度によってはガバナンスに果たす前向きな機能が損なわれる可能性がある。 (3)残された課題 1)社会科学的な根拠の欠如の問題が指摘できる。取締役会の構成や社外取締役の役割に関し大々的な論争や議論が行われてきたにもかかわらず、社外取締役の有効性を示す社会科学的な根拠は乏しい。日本企業に関する研究はごく少数に留まっている。しかし、企業パフォーマンスに対し強い正の影響があるという結果を示した研究は皆無といえる。同様に、米国あるいは英国のデータを用いた国際的研究においても、企業パフォーマンス全般に関して何かしら確定的な結論が得られているわけではない。これは、ある程度、内生性(endogeneity)の問題に関わっている。たとえば、業績不振が社外取締役導入のきっかけになる可能性がある。すなわち企業パフォーマンスから内生的に取締役会の構成が決まることがありうるのである。しかし、企業パフォーマンスとの関係について、より広範でかつ組織的な評価が行われることは極めて望ましい。さらに、日本における社外取締役の導入はまだ初期段階であり、新しい「委員会等設置会社」制度のパフォーマンスに対する影響も近い将来に研究されるべき課題である。 2)社外取締役の有効性を高めるための主要課題は、専門的知識に関わることである(矢内)。取締役は、戦略的経営判断を効果的にモニターするために、企業の社内業務運営や企業が属する産業を取り巻く環境などについて十分な情報を与えられなければならない。あるいは、社外取締役は戦略的に関連する外部情報を社内にもたらすものでなければならない。 3)社外取締役に関する第二の問題は、代表性と独立性のバランスである。社外取締役がステークホルダー(投資家、従業員、取引銀行など)を直接的に代表していなければいないほど、現職社長の影響力に対して脆弱にならざるを得ない。したがって、社外取締役が当該企業の重要なステークホルダーを効果的に代表するケースでは、彼らが経営陣トップを質す可能性はより大きくなり、取締役会とは別に独自の情報源を持っている可能性もある。このような特徴は取締役会のモニタリング機能の触媒となるかもしれない。一方、社外取締役がステークホルダーの利害を代表する度合いが大きな場合、取締役会はそうした利害の衝突に足元をすくわれ、厳しい決定ができなくなるという主張も時折聞かれる。経験則によれば、これは議論の余地がある未解決の問題である。たとえば、ドイツの監督委員会は、複数のステークホルダーの利害を代表しているが、意思決定は効果的に行われているようである。 4)より具体的に、どのような人物が社外取締役を務めるのか。投資家サイドの調整の問題を考えると、近い将来において投資家が自らの代表する者を社外取締役候補として送り込むよう積極的に行動するかどうかは疑問である(矢内)。企業が財務上の困難に立ち至った場合、銀行は引き続き社外取締役を送り込む。しかし、ドイツなどとは異なり、日本の規則には社外取締役の一員として従業員代表を設けることについての規定がない。したがって、社外取締役は多くの場合、他の企業の経営者から選ばれる可能性が高いように思われる。 5)社外取締役は、モニタリング機能だけでなく、リソースとしての役割を果たす可能性がある。社外取締役は当該企業にとって戦略的に重要な分野の専門的知識をもとに選考されることが多い。このため、社外取締役は、事業パートナー、競争相手およびその他の仲介者との情報の流れにおいて重要なブローカーとしての役割を果たす可能性がある。 6)「~することができる」という形式の法制か強制力を伴う法制かという問題である。これまでの議論は、組織構成の選択を許す権利付与的なアプローチと日本企業に構造改革を課す強制力を伴うアプローチの間にさまざまなトレードオフが存在することを示している(宍戸)。異なる種類の企業にとっては異なる取締役会の構成が効果的である可能性を踏まえると(サイズが1つしかなければでは全ての人にフィットする服にはならない)、権利付与的なアプローチに長所がある。このアプローチはまた、政策失敗の可能性を小さくする効果がある。これに対して、強制力を伴う規則はそうした規制がなければ形成されたであろうより効果的な慣行の発展を阻害する。一方、権利付与的アプローチの主な弱点は、改革を必要としている企業に対して改革を「強要」することができない点にある。局所的に少しずつ実験を重ねていくだけでは、コーポレートガバナンスの慣行を新しいより効率的なセットに向かって前進させていくには不十分である可能性が大きく、したがって、諸慣行が互いにコーディネートされた次なるコーポレートガバナンスのセットを探索していくアプローチが望ましい(伊藤)。業績不振企業の現行経営陣が社外取締役に自発的に権限を委任する可能性は今後とも考えにくい。英国、ドイツにおける最近の経験は、自発的な規範、あるいは「遵守かさもなくば説明の原則(comply-or-explain principles)」に基づくソフトローアプローチ(soft-law approach)が有用な中間的アプローチである可能性を示唆している。 7)「委員会等設置会社」制度は日本でどの程度急速に普及するだろうか。これまでに約55社が「委員会等設置会社」制度を採用している。これを予想以上であと見る向きもあるが、この程度の数字では新制度に向けて急速なパラダイムの変化が起こっていると見ることはできないと言わざるを得ない。いくつかの予備的観察によれば、企業が「委員会等設置会社」制度を採用する動機にはさまざまなものが入り混じっている。すなわち、グループ企業のガバナンスを確保するとか、あるいは子会社にとって親会社から派遣される社外取締役が重要なリソースの役割を果たしていると見なされるといったことが考えられる。しかし、こうした動機や背景がないその他の企業にとっては、この制度の採用を迫る株主の圧力は不十分である。一方、現在の多くの企業経営者にとっては、社外から過半の委員を任命する利点が見出せない、あるいはこの制度は水平的な情報共有を通じて業務運営が厳密な擦り合わせの下に行われる必要のある産業には適さないという考え方が一定程度流布しており、少なくともこうしたパーセプション上において不利な点が存在している。この制度を企業が採用するかしないかについてそれぞれさまざまな動機が考えられる。それをよりよく理解するために更なる研究が必要である。 8)豊富な自社資金源を持つ大手優良製造企業は、外部ガバナンス構造とどのような関係を持つべきであろうか。一部の極めて大きな日本企業はますます自己資金への依存を高めており、業務展開においても極めて大規模化し、多様化する傾向を強めている。このような企業では、プリンシパル・エージェントの問題は別の形で現れる。エージェンシー問題は、本部とさまざまな部門あるいは子会社の間など、企業内で深刻になっている可能性がある。さらに、外部金融は外部的規律の源として機能していない。別の言い方をすれば、金融的に自立し、支配権を有するオーナーが存在しないバーリー=ミーンズ型の「経営者による支配」が貫徹している企業に近い。ステークホルダー間の適切なチェックアンドバランスが、企業の金融形態に依存するのかどうかについては、より突っ込んだ考察が必要である。 争点その4:コーポレートガバナンス諸制度の間の補完性と収斂の問題 日本のコーポレートガバナンスはどの程度米国型モデルに収斂しているといえるのか。近年の変革は、日本のコーポレートガバナンス制度のさまざまな要素の間の補完性について何を示唆しているのか。 (1)肯定的見解 日本は、米国型の株主志向のコーポレートガバナンスに収斂しつつある。 1)企業レベルの分析に基づくさまざまな実証結果によれば、日本企業について、その企業が資本市場の圧力にさらされている度合いと米国型の株主志向の強いコーポレートガバナンスの要素をどれだけ多く採用するかの間には強い相関がある(Jackson)。社債による資金調達に依存する程度と外国人の株式保有比率の高さは、取締役会に関する透明性の向上や改革の程度と相関している(宮島)。また、資本市場の圧力の大きさが雇用水準の調整を大きなものとすることを示唆する研究結果もみられる(阿部、Ahmadjian)。外部統治機構のコントロールを強め、より透明性を高めようとするこれらの動きはいずれも、米国型のコーポレートガバナンスパラダイムに向けて本質的な転換が始まっていることを示している。 2)メインバンクとの関係や株式持合いなど日本的システムの特徴を構成していた主要な要素が蝕まれつつある(宮島)。こうした要素がどの程度失われつつあるかについては実証的に議論の余地があるが、このような傾向はこれまでの制度が影響力を失いつつあることや新しい形のガバナンスへとパラダイムシフトが生じつつあることを示唆している。 3)法改正により、日本企業は米国型の取締役会制度を選択することができるようになった。このような権利付与型の法整備は、日本と米国の会社法がフォーマルな収斂へと向かっていることの1つの表れであると見ることができる(宍戸)。 4)日本的システムの特徴的要素が蝕まれている理由の1つとして、米国的な市場重視のコーポレートガバナンスシステムの構成要素と日本的な関係性重視のコーポレートガバナンスシステムの構成要素が、それぞれの国の法体系および制度的設計に基づく既存の制度的インフラストラクチャーの下では、互いに相容れない可能性があることが挙げられる(寺西)。たとえば、資本市場が自由化されると、銀行中心のコーポレートガバナンスのやり方を旧来の形態で純粋に継続することが困難になる。取引先企業との長期的関係から生み出される情報レントにその基礎を置く関係性重視のシステムとは異なり、資本市場では情報公開に基づいた透明性が求められる。同様に、株主の利害を重視する方向で改革を進めることとステークホルダーの間に存在する強い協力関係を維持しようとすることも相容れない可能性がある。 (2)否定的見解 日本は米国型モデルに収斂しない。日本はむしろ、株主とステークホルダーへの配慮をバランスさせることによって競争優位性を維持する効果的なハイブリッド型のコーポレートガバナンスの仕組みを生み出すことができる。 1)重要な変化がみられるものの、多くの実証研究が日本において引き続き各種の継続性がみられることを示している。企業の株式保有と金融については、日本の企業間で相当な異質性が存在している(Jackson、宮島)。メインバンクとの結びつきを弱めた企業もあれば、強化した企業もある。外国人投資家も、かなり限定された企業群にターゲットを絞っている。従業員に関していえば、企業の株式保有構造あるいはガバナンスにおける変化と雇用パターンの間の相関が比較的弱い(阿部)。終身雇用制は、マージナルな部分で修正が施されたににすぎず、制度としての頑健性がかなり高いことが証明された(Jackson)。したがって、変化が起きた場合でも、結果は、伝統的な米国のモデルと日本のモデルからそれぞれ異なる構造的特徴を引き継ぎ、それらを組み合わせた新しいハイブリッド型コーポレートガバナンスとなっている。 2)コーポレートガバナンスの特性に関する企業のクラスター分析によると、上場企業の約69%が、系列関係を有し、メインバンクとの結びつきを有し、コーポレートガバナンス改革に消極的で、伝統的な終身雇用制を採用している日本の古典的コーポレートガバナンスモデルに依然として従っている(Jackson)。また、上場企業の17%が、伝統的な系列に属すことなく独立した企業である。しかし、こうした企業群においてもコーポレートガバナンス改革はわずかな前進しかみられない。最後に、上場企業の約14%が、機関投資家の株式保有がみられ、資金は市場から調達し、コーポレートガバナンス改革に迅速に取り組んでいるハイブリッドモデルを代表する企業である。しかしながら、こうした企業であっても、終身雇用に対するコミットメントを維持しており、取締役会における社外取締役の参加の程度もばらつきがみられる。 3)特に日本企業は、終身雇用慣行を撤廃することに極めて消極的である。約80%の企業が今後とも終身雇用にコミットしていくと表明している(宮島、Jackson)。むしろ、日本企業は、早期退職、異動など、より温情的な的な形の雇用調整を用いて積極的に事業活動のリストラクチャリングに取り組んでいる。現在でも完全な解雇は極めて珍しく、雇用削減された数全体の5%にも達していない(Jackson)。一方、日本企業の賃金制度は、可変的で能力志向型になりつつある。しかし、これは、日本企業において中心的役割を果たしている人的資源に関するほんのマージナルな調整にすぎないと思われる。 (3)残された課題 1)ハイブリッドモデルは本当に安定的なのか、それとも単に移行期にあることを示しているにすぎないのか。残念ながら、この質問に対して今のところ実証研究は何も答えられない(Jackson)。しかし、現在の傾向や変化の速度をそのまま外延することはミスリーディングであるかもしれない。たとえば、株式持合いを完全に撤廃しないという強いインセンティブが存在すれば、株式持合いを解消に向ける急速な変化は減速し、いずれ低いレベルで安定するかもしれない。他方、今のところ安定しているその他の制度も、今後、調整に対する失敗が危機的なマグニチュードに至るという決定的な「転換点」に達し、大きく崩れるかもしれない。たとえば、終身雇用慣行は、今のところ早期退職や異動など温情的な形での雇用調整が行われることによって企業のリストラクチャリングと両立している。しかし、そのような調整方法も限界に達し、崩壊に直面する可能性がある。経済的・制度的な変化が、潜在的に有しているこうした非線形のダイナミクスについてはあまり良く理解されていない。この意味で、この質問に対する実証的な答えを期待することはできないのが現状である。 2)コーポレートガバナンスのハイブリッドモデルについて、理論的理解は十分とはいえない(伊藤、矢内)。さまざまなステークホルダーの利害は実際のところ、どのようにバランスが取られるべきなのか。多くの経済理論は、株主と従業員の間に利益分配面でネガティブサムの関係があることを強調している。しかし、コーポレートガバナンスとステークホルダーの発する意見表明(voice)との間にポジティブサムな関係があることは、著しく無視されてきた(Jackson)。シェアホルダーバリューはステークホルダーとの交渉を経て実現されるという形のコーポレートガバナンスを発展させることは、投資家の発する短期主義的または近視眼的なシグナルに対してチェックアンドバランスを働かせることになるかもしれない。同様に、投資家と従業員は、経営陣トップの意思決定の透明性や説明責任を向上させる上で共通の利害を有する可能性もある。実証研究の結果によれば、ステークホルダーの強い発言力は、競争上の圧力に対する企業の感応度を高め、コーポレートガバナンス改革の採用を遅らせるどころか、促進させる可能性があることが示されている(宮島)。 3)大部分の日本企業は、現在もなおコーポレートガバナンス改革を必要としている。日本企業の約50%は今でも、極めて伝統的なコーポレートガバナンスのモデルに従っており、コーポレートガバナンス改革に取り組むことに消極的となっている(宮島、Jackson)。このグループには、銀行の不良債権先に組み込まれている企業など、より積極的なモニタリングを行うことが最も必要とされている多くの業績不振企業が含まれている。前述の通り、法改正における権利付与的なアプローチは、このような企業に劇的な改革を促すには力不足である。 こうした企業に対して、より徹底的なモニタリングを行う潜在的な担い手はいくつか考えられる。第一に、合併・買収を通じ企業支配権を売り買いする市場が拡大されることにより、これらの企業に対する外部からの規律付けがもたらされる可能性がある。しかし、M&Aには多くのマイナスリスクも伴う。第二に、ソフトローに基づく手段をより多用するとともに、コーポレートガバナンスに関する民間準則を確立することは、取締役会における社外取締役の役割を強化し、また透明性を向上させることを通じて投資家の活動を促進させることに役立つ。第三に、国内の投資信託会社は今後経験を積むことによりより活発になり、このような企業に対する圧力を強める存在になるだろう。第四に、既存のステークホルダーに対してフォーマルな権限をより多く与えている欧州型モデルの採用が進めば、業績不振企業の経営者の説明責任をより重いものとする可能性がある。 4)企業の組織的アーキテクチャー(擦り合わせ型とモジュール型)とコーポレートガバナンスの関係も残された課題である。制度の比較優位分析の理論では、異なる種類の経済活動には、それに合った、異なる制度が優位性を有するとされている。そのため、各国は、歴史的にこれまで規定されてきた制度的特性によく適合する産業に特化することを選択する可能性がある。しかし、企業は企業として個々に、自社の組織的アーキテクチャやある一定の分野にマッチしたガバナンスの方法を選択することもできる。こうした関係は日本にとって重要な意味を持つ。なぜなら、これまでの規制改革やさまざまな経済動向の変化によって、コーポレートガバナンスの特性が企業間でより多様化する傾向が日本において生み出されているからである。今後の研究課題として、企業レベルのデータを用いてコーポレートガバナンスと組織的アーキテクチャの間の補完性を実証的に追求することができれば、極めて有益である。 その他の一般的課題 (1)スキル形成とコーポレートガバナンスの関係も、これまで論じてこなかった重要な残された課題である。近年多くの文献で、コーポレートガバナンスがスキル形成の問題と関連付けて論じられるようになった。1つは、両者をイノベーションのパターンとの関連で論じたものである。たとえば、強固な企業特殊的スキル(firm-specific skill)と安定した長期的な関係に基づく銀行からの資金調達(relational financing)の下では、少しずつ改良を加えていくような漸進的イノベーションが生み出されやすくなるという議論である。もう1つは、コーポレートガバナンスとスキルの形成および維持の間の直接的つながりを論じるものである。投資家の圧力や活発なM&A活動を特徴とする市場志向のコーポレートガバナンスの下では、それまで蓄えられてきた企業特殊的な人的資本が失われたり、新たにこうした人的資本への投資が行われにくくなったりする可能性がある。こうした企業特殊的スキルを支持する考え方は、企業における長期的投資やコーポレートガバナンスに関するステークホルダーの意見表明(voice)を重視する考え方と軌を一にしている。前述の通り、こうしたつながりは、コーポレートガバナンスがビジネス戦略と企業パフォーマンスに対して、より広い意味で影響を与えていることを示すものであり、将来の研究で探求されるべき課題である。 (2)日本の企業システムの変化を理解する上で、有効な理論的枠組みとはどういうものか。ハイブリッドモデルは、さまざまな制度的、組織的な要素の間の補完性をいかに理解するかという理論的な問題を提起する。補完性について論じた文献では、1つの制度が積極的役割を果たせるかどうかは、補完的な他の諸制度が存在するか否かにかかっていると示唆している。こうした体系的な観点に立った解釈の枠組みは、これまで日本と米国の違いを理解するために応用され一定の有効性を示してきた。しかし、「混合型」コーポレートガバナンスを採用することに伴う長所・短所、あるいはこうした仕組みが潜在的に生き延びられるかどうかといった点をより良く理解するためには、補完性に関するこうしたコンセプトを洗練する必要がある。こうした混合型のコーポレートガバナンスは、内外のベストプラクティスの要素を組み合わせたものと理解することができるが、一貫性に欠けている可能性もある。 (3)制度間に補完性(complementarity)があるという概念とお互いに矛盾なく制度が両立し得るという適合性(compatibility)の概念を理論的に区別することは有益である。実際、あるガバナンスの慣行は、ある一定のその他のさまざまな制度的取り決めと適合性を有しているという関係にある。法的ルールはしばしば不明瞭な部分を有しており、変化する環境に適した新しい方法で再解釈される余地が存在する。また、古い制度は環境変化に応じて新たな機能を果たすこともある。さらに、企業がどのような特徴を有する制度のセットを選択するかどうかは、産業特有のあるいは企業特有のパラメーターに依存している可能性がある。たとえば、A1とB1の間に補完性があり、同様にA2とB2の間にも補完性があるとしても、一定の異なる外生的条件の下でA1とB2の間にも補完性があるという可能性を排除することはできないのである。 (4)経営陣の役割は、株主とステークホルダーの複雑な利害に基づいている(伊藤)。ほとんどの経済理論は、企業は株主報酬など1つの目的関数を有していると想定しており、株主とステークホルダーの利害のバランスを取るなどといった複合的な目的関数を有する場合には、意思決定に関する説明責任を果たす上で支障が生じると想定している。一方、社会学や組織的行動の理論では、対照的に、複数の目的が存在するということは例外などではなく通例のことであるとされている。しかし、株主とステークホルダーの利害の調整といったこの種の目的関数については、今のところきちっとした理論的モデルを用いた体系的に分析されていない。 (5)エンロン事件以降の米国の現行政策、とりわけサーベインズ・オクスレイ(Sarbanes-Oxley)法(その歴史的重要性および米国型のガバナンスモデル(A-Model)との関係)についての評価も残された重要な課題である。コーポレートガバナンスに関する議論の多くは、未だに米国モデル(U.S. model)についての定型化されたビジョンに基づいて行われる傾向にある。SO法の経緯が示すように、米国モデルは極めて流動的な状態にある。社外取締役の役割は進化し続けている。会計、法令遵守およびその他の社内モニタリングの課題も浮上してきている。米国の法令は、しばしば米国で上場している日本企業に対して域外適用される。しかし、そうした問題を別にして、米国における最近の進展を適切に評価することは、日本において未来志向的な政策を考えていく上で重要な情報源となりうる。 (文責:Gregory Jackson、翻訳:細谷祐二) イベント シンポジウム ワークショップ BBLセミナー 終了したセミナーシリーズ 情報発信 ニュースレター 更新情報RSS配信 Facebook X YouTube 研究テーマ プログラム (2024-2028年度) プログラム (2020-2023年度) プログラム (2016-2019年度) プログラム (2011-2015年度) 政策研究領域 (2006-2010年度) 経済産業省共同プロジェクト プロジェクトコンテンツ 調査 フェロー(研究員) 論文 ディスカッション・ペーパー(日本語) ディスカッション・ペーパー(英語) ポリシー・ディスカッション・ペーパー(日本語) ポリシー・ディスカッション・ペーパー(英語) テクニカル・ペーパー(日本語) テクニカル・ペーパー(英語) ノンテクニカルサマリー 英文査読付学術誌等掲載リスト Research Digest 政策分析論文 調査レポート 論文検索サービス 出版物 RIETIブックス(日本語) RIETIブックス(英語) 通商産業政策史 著者からひとこと RIETI電子書籍 年次報告書・広報誌(RIETI Highlight) その他出版物(日本語) その他出版物(英語) イベント シンポジウム ワークショップ BBLセミナー 終了したセミナーシリーズ データ・統計 JIPデータベース R-JIPデータベース CIPデータベース JLCPデータベース 日本の政策不確実性指数 産業別名目・実質実効為替レート AMU and AMU Deviation Indicators JSTAR(くらしと健康の調査) RIETI-TID 長期接続産業連関データベース マイクロデータ計量分析プロジェクト 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